§松本聖香 バレンタインデビュー §
友人の松本聖香(ショウコ)さんが歌手デビューした。
時は2月14日聖バレンタインの日、場所はソーホーにあるHiroko’s Placeである。実はショウコさん、本業は某旅行会社へお勤めのワーキングガールである。飛行機チケットをお願いしたのをきっかけにお話しする機会があり、歌が大好き、近々ニューヨークで初リサイタルを開くと伺ったのがクリスマスの頃。そして待ちに待った「この日」である。
私も歌は大好きである。聞くのも歌うのも大好き、だからとても楽しみに出かけた。
ソーホーはSOHO、South of Houston Streetの略で、マンハッタンのダウンタウンにあるファッションと芸術の町である。因みにノーホーはNOHO、North
of Houston Streetの略、トライベカはTRIBECA、 Triangle Below
Canal Streetの略というから、名前のつけ方は大阪と神戸の間が阪神、明石と姫路をつなぐ道路が明姫幹線なんていう日本とあまり変わらない。
ソーホーは流行の最先端をいく店が建ち並び、特に多いのはアンディ・ウォ−ホールなどのモダンアートを扱うギャラリーである。町を歩けば1軒1軒意匠を凝らしたウィンドウが並び、思わず足を止めて見入ってしまう。Hiroko’s Placeはそんなお洒落なお店のひとつ、日本人のヒロコさんが切り盛りされているカフェレストランである。ゆったりとしたソファーがふたつにテーブル席がいくつか、そしてカウンター、そのカウンターの上や壁には「カドイゴロー氏」のアート作品が並ぶお洒落な店も、立ち見がでるほどの混みようである。
今夜は6時半からのショウコさんのステージ、お店は貸切り。ショウコさんの交友の広さを物語るように、たくさんの友人が詰めかけていた。皆がショウコさんの知り合いという気安さからか、相席になったマリさんとエリさんとも初対面ながら話がはずむ。というか「期間限定ニューヨーカー」の私としては、「ニューヨークで頑張る女性」にとても関心があったので、厚かましくお話しを伺った次第である。
マリさんはショウコさんとは9年来の友人、しかもマリさんご自身もジャズシンガーなのである。こちらの大学、大学院でジャズを専攻され、今はダウンタウンのお店で定期的に活動されているとか。明日もステージがあるとおっしゃっていたが、今夜はお友だちのショウコさんのデビューとあって、応援にこられたそうである。
彼女からうれしいことを伺った。「女性は40歳からが味わいのある、いい声を出せる」そうである。最近声まで年とってきたかと気にしていたが、鍛えればなんとかなるのだと大いに元気づけられた。
かたやエリさん、彼女はニューヨークで心理学を勉強していらっしゃる。病気で精神的に落ち込んだ人を、精神面から支えたい。病気を病巣だけ扱うのではなく、「精神を引きくるめた人間まるごとの医療としての分野」を目指しているという姿勢には共感できるものがあった。現在博士課程で勉強していらっしゃる彼女、近い将来心理学博士である。
芦屋出身のマリさんとの、お二人の懐かしい関西弁のやりとりが聞こえてきたのでつい話しかけてしまったのだが、エリさん、吹田出身のとても面白い女性でした。落ち込んだら是非カウンセリングをお願いしようと思う。
店の片隅に目を移せば、ショウコさんのオリジナル曲の作曲を手がけたというSoliさん、暖かい眼差しで少し心配そうにショウコさんを見守る。
中央テーブルの俳優だという日本人男性は、デビューおめでとうの言葉を贈るついでに、『今度レギュラーの番組に出ます』としっかりご自身の宣伝をして、皆から拍手をもらった。
お父さんとお母さんに連れられた小さな男の子ロカくんは、大人に混じってちゃんとリズムをとりながら聴き入る。
そんな和気あいあいとした、日本人アメリカ人取り混ぜての応援の中、ショウコさんのステージである。
彼女は9年前にブラジルに行かれたことがあり、そこがどんなに素晴らしかったか、夜ビーチを歩くと夜空には満天の星、手を伸ばせば届きそうだったと話される。そしてその時の感動を写し取ったように披露する「サマー・サンバ」、「アサイ」という歌はブラジルのアマゾン地方のブルース、どの曲もなかなか大人の雰囲気を醸し出して聞かせる。小休憩を挟んで2部に亘って繰り広げられたショウコさんの熱唱、夢をひとつ実現させた喜びを皆で分かち合えた楽しいひと時であった。
彼女のオリジナル曲の中のひとつ。
「頬よせて歩いたモンマルトルの丘 愛し合いながら過ごした時間も 離れてしまえば 薄れゆく記憶 さよなら愛する人…」
なるほど、「恋を失って女は美しくなる」のだと納得するほど、しっとりと歌い上げるショウコさんは「いい女」であった。
帰りの地下鉄の軋みまでがラテンのリズムに聞こえるような、いい気分のまま帰り着いたアパート、「た・だ・い・っ・ま!」とサンバ風に声をかけると、大あくびをして尻を向けられた。音楽の解らぬ猫である。
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